ビジネスを飛躍させるデータドリブンの力
皆さん全体最適してますか?
いきなり上司などからそんなことを聞かれたとして、筆者なら何と答えるか考えてみましたが、「どこの話ですか?」と“TPO”について逆質問しないことには答えようがないという結論に至りました。
今回は、二元論で語られることの多い部分最適と全体最適の間に個別最適という緩衝地帯を作り、ビジネスプロセスの流れを浄化する方法について、組織内IT・情報システムの見地から考えてみたいと思います。
忙しい皆さんのために、ここは思いっきり手っ取り早く進めましょう。
下の図は、Waha! Transformer の製品サイトの記事に掲載した「某グローバル製造業の統治機構図」です。
【参考】全体最適に基づいた個別最適はあっても、部分最適やサイロは許されない
なんかもう、ほぼ記事タイトルの答えになってしまっているかのように見事な統治機構図です。
CEO・経営トップの意思決定は常に組織全体どころか市場・社会までをも見渡した上での全体最適が求められることはよくわかります。
ただ、各部門を管掌する役員は、自部門の中における全体最適≒個別最適でよいということなんですね。
また、この図でCEOのカウンターパートにいるのは商品・生産部門を統括するCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)ですが、日本でバズワードになったDX:デジタルトランスフォーメーションの責任者としてCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)を兼務されています。
商品・生産部門については個別最適でよくても、他の職務は全体最適で意思決定しなければいけないのでしょうから、このポジションがCEO・経営トップへの登竜門になっていることも想像に難くありません。
ひとまずこのセクションでは、部分最適やサイロ化・タコツボ化と呼ばれるものが悪いのであって、個別最適は悪いものではないということだけ、表明しておきたいと思います。
すぐに答えをネットに求めてしまうのはよくないことだと承知しつつ失礼いたします。
部分最適とは、システムや組織において、各部分機能で狭い範囲(見える範囲、考えられる範囲、できる範囲など)で行動をし、最適にすることを言います。部分最適は、あくまで表面的な解決であり、根本的な問題の解決にはつながらないケースが多いです。
なんとこれは!
以前の記事『デジタル人材に求められる「情報デザイン:設計」スキルとは?』にも登場した問題解決プロセスの話ではありませんか?!
ビジネスプロセスにおいて何か問題が生じた時、あるいは鶴の一声で天から課題が降ってくるような時、脊髄反射的にモグラたたきを始めてしまう方が、皆さんの周囲にもいらっしゃいませんか?
なぜ、ちゃんと考えられないのでしょうか?
よくあるタイプは、「刺激反応型」とか「脊髄反射型」といった言葉が適切かと思いますが、脳ミソを通さずに、反射的にしゃべっているような人。要は「場当たり的、無計画、論よりRun」なのです。
そんな脊髄反射的モグラたたきの結果、表面的には問題が解決したかのように見えたとしても、少し時間が経過したり関与する人が変わったりすると、解決したはずの問題が再燃することって少なくないですよね?
そうなると初期の問題どころか二次災害の様相を呈してきますから、時間がかかったことによって被害が拡大した結果、より多くのコストをかけないと解決できないという最悪のケースにもなり得るのが怖いところです。
カバー画像にした「サイロ」の写真を見るといつも感じるのですが、本来のサイロは保管している作物や材料を分散したリスク・マネジメントの知恵が感じられるのですが、サイロ化のようなビジネス用語になった途端にタコツボ化と並んであしき状態の代表のようになってしまうのが気の毒なところです。
ビジネス/IT領域におけるサイロとは、業務プロセスや業務アプリケーション、各種システムが孤立し、情報が連携されていない様子を指します。サイロ化する理由としては、企業内の各部門が個別最適でシステムを構築し、他部門のシステムとの連携が考慮されずに開発されてしまうことなどが挙げられます。
その上で、言うに事欠いてサイロ化のことを「個別最適で~」となってしまうのが、筆者たちが暮らすIT村の悲しいところでしょうか。
そんな部分最適・サイロ化と同義語と言っても過言ではない用語に、マイクロマネジメントがあります。
マイクロマネジメントとは、管理者である上司が部下の業務に強い監督・干渉を行うこと[1]で、一般には否定的な意味で用いられる。マイクロマネジメントを行う管理者は、業務のあらゆる手順を監督し、意志決定の一切を部下に任せない。部下の立場から見れば、上司がマイクロマネジメントを行っていると感じられることは多いが、上司がそのことを自覚することはまれであるとされる。対義語は、マクロマネジメント。
もし、皆さんの上司が部分最適なマイクロマネージャーかもしれないと感じてしまった方は、チェックリストで上司診断してみられるとよいでしょう。
この調査で、「優秀な管理職」には8つの資質があることが確認されました。
皮肉なことに、これらの特徴の逆の行動が、まさに「有害な上司」の行動になるのですが、ほとんどの有害な上司は、自分に問題があることにさえ気づいていないのです。
あなたが管理職なら、これらのうちのいくつが自分に当てはまるか、少し考えてみてください。
- 部下に技術指導をしなければならない時、イライラしてしまう
- 部下の仕事をすべてダブルチェックしなければならないと思っている
- 部下が仕事をきちんとこなしているかどうか以外には、部下のことを何も知ろうとはしない
- 常に予定より遅れていて、方向が定まっていないと感じる
- チームと対話するよりも、オフィスにこもっていたい
- 部下のキャリアアップは、自分ではなく、部下の関心事であるべきだと考えている
- 現在のチームで既存の目標を達成するところを想像できないせいで、部署の成長を計画できない
- 自分にはないスキルを部下が持っており、それに頼らざるを得ないことが気に食わない
ギャラップの調査によると、企業は82%もの割合で、管理職の人選を間違えているそうです。
もとい、
冒頭に記載した統治機構図の通り、組織全体のビジネスプロセスに悪影響を及ぼさないのであれば、部門単位の個別最適は問題ないはずです。
そのために各部門を管掌する視座の高い役員がいるはずですし、もし他部門との間でコンフリクトが生じるようなことがあるのでしたら、それこそ待ってました!でしょう。
図の中に記したように「相互牽制が機能した意思決定」が、そもそも設計されているのです。
部門単位の個別最適であっても、個別最適の間で相互牽制の力が働けばよいという前提なですね。
各部門の担当役員はそれこそ経営幹部であり将来のCEO候補でもあるわけですから、いざCEOのポジションになった時に全体最適の視点で意思決定できるよう、役員の段階から訓練されるようになっているのでしょう。
個別最適の間でコンフリクトが生じたら、当事者がその対立を解消するために喧々囂々の議論を行い、まさしく最適解:Optimal solution を導き出せばいいのです。
それでも対立が解消しない、あるいは組織全体のビジネスプロセス上も問題があることが懸念されるような場合には、担当役員よりもっと視座の高いCEO・経営トップが最終判断すればよいのでしょうね。
そもそもの最適化とは、そのように立場を変えて見直したり、範囲を絞ったり拡げたりを繰り返して、柔軟に取り組んでこそ成立するものなのではないでしょうか?
筆者の寄稿でたまに登場する「IT方言シリーズ」でやり玉に挙げることの多い「業務」ですが、全体最適難民の特徴の一つとも言えそうなのは、口では業務フローと大層なことを言いながら実際には「ワーク(作業)フロー」を語ってしまうのがレガシーIT人材でもあります。
【再掲】ビジネスプロセスと業務フローの違いを認識できないのが全体最適難民
以前の記事に掲載したこの図であれば、上から2段目のビジネスプロセスを語っているように見せかけながら、経理や人事といったロール:役割ごとの個別最適が抜け落ちてしまい、その下段で生じるワークフローを全体最適させろと言うような方がいます。
前述した統治機構図のように、先進国のグローバル企業におけるCEO・経営トップは、ビジネスプロセスを定義づける経営戦略を考えることがそのお仕事の1丁目1番地のはずであり、CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)やCMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)がいればわざわざ経営企画のように個別最適しようのない間接部門を作る必要がないわけですね。
参謀役が必要なら、それこそ客観的なアドバイスをくれる社外取締役や顧問、戦略コンサルティングファームなど、固定費をできるだけ増やさない中で費用対効果を高めた方がいいはずです。
そんな全体最適難民の登場シーンとして、例えば、『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」』でもやり玉に挙がってしまったようなERP:基幹系システムにおける財務会計アプリケーションの保守切れが近づいたことが契機だったとして、ただ業務アプリケーションを刷新したいだけなのに、「生産、営業は承認しているのか?」みたいな根回し文化を強要してくるわけです。
財務会計アプリケーションはCFO、販売管理アプリケーションはCMOのように、それぞれの担当役員による個別最適の判断で作ってはいけない理由がまったく思いつきません。
怖いですねぇー。弱りましたねぇー。
2000年代に吹き荒れた「コンプライアンス不況」という大嵐に代表されるように、就業規則や権限規定に付随する懲罰規定などをひっくるめて従業員の行動を縛れるだけ縛ろうとする「ブラック校則」のような運動が日本各地で巻き起こりました。
それと同じように、CEO・経営トップから頼まれてもいないのに全体最適という錦の御旗を高々と掲げながら、組織のそこかしこで流れをせき止めようとするボトルネック人材は、さすがに2000年代より少なくなったであろうとは思うものの絶滅してはいないようです。
そんな全体最適難民がもし御社にいらっしゃるなら、ぜひ冒頭の統治機構図をご覧いただいてみてください。
CEO・経営トップでもないご自身が、組織の各所でボトルネックになっている事例集なども添えることができれば、きっとおとなしくしてくれるようになるのではないでしょうか。
さらに、そんな全体最適難民がどうしてもCEOを補佐することで株を上げたいのであれば、経営理念・社是・社訓とそこから導き出されているはずの戦略・戦術・戦法を見直して、改善すべきところが見つかったところで改定・改修を提言していただければ、それこそまさしく全体最適のあるべき姿ではないでしょうか。
最近はやりの「DX」や「パーパス経営」、2000年代に一瞬だけ持てはやされた「クレド:信条」など、自身の存在を認めてもらおうという承認欲求のせいなのか、目新しいバズワードを使いたがるのも全体最適難民の特徴の一つと言えるでしょう。
経営理念・社是・社訓がステークホルダーから共感されるものにできていれば、わざわざ新語でごまかして理解を複雑化させる必要はないでしょうし、そこから生み出される戦略・戦術も合理的でエッジの立ったものにできるはずだと筆者は信じております。
また、筆者の記憶にある限り、全体最適難民の具体的な特徴として完璧主義や潔癖主義といった傾向があるように見えますので、次に面と向かう機会があったら、その主義主張は自らを律するものにとどめておいていただくことで、ボトルネック人材にならないようアドバイスしてあげたいと思います。
本当の難民を発生させてしまっているような独裁国家の例を見てもわかる通り、観念的で主観的な自分本位の論理的思考から導き出された方策の多くは、客観的に見た時にまったく合理的でないことが、この世にはあふれかえっているのですから。
「最初から完璧」であることを当然視する価値観は、モノづくりに限らず、日本のビジネスに広く浸透している。この完璧主義は、日本のビジネスの強みでもあり、弱みにもなっている。完璧主義には、粗も隙もなく仕上げた商品・サービスで顧客の信頼を獲得できるという強みがある一方で、完璧を求めるあまり開発期間が長期化したり、リスクを避け、前例のない新分野を開拓する取り組みには手を出さなくなったりする弱みも抱えている。
もう一つ、できる人とできない人の例が紹介されている下記記事などもご参考ください。
しかし凡人は、自分の仕事のどこが重要でどこが重要でないか、プロジェクトでどの工程が成否を分けるかをあまり考えていません。
完璧主義な人もこういう傾向があり、例えば文書であればフォントサイズやレイアウトなど、さまつなことにまで全力投球します。
それで自分は満足・納得するかもしれませんが、相手や顧客が特に喜ばないとすれば単なる自己満足的な作業であって、付加価値にならないタスクにエネルギーをかけているということです。
それぞれの業務アプリケーションは個別最適でよいが、データについては全体最適で連携させるべし
Waha! Transformer 製品サイトでも公開している上の図、筆者らは提案書などにも掲載していますが、 情報システム部門であればシステム管理マニュアルの表紙に記載されているようなネットワーク&システム構成の全体像をざっくり示す概要図です。
この図であれば、それぞれの業務アプリケーションごとに個別最適の結果として散在しているデータも、Waha! Transformerを使えばいつでも連携・活用できるようになりますよという状態を表しています。
経営資源の「ヒト・モノ・カネ」に「情報:データ」が加わってから、かれこれ30年余りが経過したでしょうか。
その間に、EDP:電算システム部門はIT:情報システム部門と名を変えながらビジネスプロセスのIT化を進めてきましたが、第三次産業革命に固執したわが国は第四次産業革命:情報革命に乗り遅れ、労働生産性の国際比較では発展途上国の地位にすべり落ちそうな気配です。
飢餓や戦争による難民を支援しても、全体最適難民にかき回されている場合ではないはずです。
そんな全体最適視点による意思決定について、よい記事がありましたので引用しておきます。
「部分最適」を「全体最適」に変えた哲学 -資生堂社長 前田新造
化粧品企画部長になって、すぐに「ブランドが多すぎる。思い切って減らそう」と提案した。だが、それぞれのブランドを手がけている面々から強い抵抗が出た。上層部にも、予想以上に「守旧派」が多かった。
~中略~
ブランドを打ち切ると言えば、必ず「これをやめると、技術が継承されなくなる」「ファンの客が困る」と反対論が出る。でも、それは、そこの都合だけを考える「部分最適」の思考だ。会社や社員、取引先、そしてお客を含めた「全体最適」を優先すべき「経営判断」ではない。池田さんが、次々に決断を重ねてくれた。百を超えていたブランド数は、4年間で35にまで減る。
以上、今回も筆者の拙い思い込みにお付き合いいただき、衷心より御礼申し上げます。
本記事をご覧いただいて、
「よしっ!自分も全体最適視点を持ったデータ活用人材になって活躍の幅を広げるぞ!」
と感じていただいた方々は、ぜひ「Waha! Day 2021」のアーカイブ配信をご参考ください。
ETL:データ連携ツールを使って「データ活用」の仕組みを組織にインストールし、事業成長に少なからずインパクトを与えたユーザー講演など、参加登録していただいた方に配布スライドと講演動画を限定公開しています。
Webメディアのビジネス+IT主催「データ活用・分析 2022 冬」で講演したプレゼンテーション・スライドです。
マーケティング部門をはじめとするビジネス人材向けのカンファレンスにつき、内容についてはツールよりもデータ分析に取り組む人材や、データドリブン経営を推進するための組織・風土について、Waha! Transformer をご利用いただいているお客様から学んだことを中心に紹介しています。
日本に独裁者は不要だが日本企業に「独裁」は必要だ、誰も責任を取らないDXの愚劣
「部分最適」を「全体最適」に変えた哲学 -資生堂社長 前田新造
「第5次産業革命」をわかりやすく解説、ドイツ・米国・中国・日本の最新動向とは
なぜ日本企業は自社だけでDXを進められないのか…人的投資を怠ってきたツケが回っている
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執筆者情報:
ユニリタ Waha! Transformer チーム
株式会社ユニリタ ITイノベーション部
PM・SEに限らず多様な経験・知見を持ったメンバーが、「データ活用」という情報システム部門の一丁目一番地でお役に立つべく集められました。
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