ビジネスを飛躍させるデータドリブンの力
本記事は「忙しい人には時間がある。暇な人には時間がない。~脱!働き方改革、シン・仕事のやり方改革~」の続編として、働き方改革という名の砂上の楼閣に気づかず、「残業が減った」だけで美酒を味わっている皆さんに向け、少しでも刺激になることを祈りながら考察を進めてまいります。
その材料とは、人口減少社会における労働生産性向上の切り札と期待される「ジョブ型雇用」です。
皆さんとの目線合わせのために、NRI:野村総合研究所の用語集をのぞいてみましょう。
濱口氏が提唱する「ジョブ型」「メンバーシップ型」の理論モデルにおいては、「メンバーシップ型雇用システム」は、職種を特定しない新卒一括採用と期間を定めない雇用、企業内労働市場中心の人材調達、ゼネラリスト型人材育成・配置等を特徴としています。一方で、「ジョブ型雇用システム」は、組織各階層における外部労働市場からの人材調達や人材配置、人材の職種別・企業横断的労働市場における転職を伴うキャリア形成等を特徴としています。
人事・労務に疎い方にとっては、きっとこれだけだと何のこっちゃわかりませんね。
また、IT脳に侵された方々は「ジョブ型雇用システム」と聞くと「そんな業務アプリケーションあるの?」と勘違いしてしまうかもしれませんが、ビジネス用語としての「システム」は、制度や仕組みのことですから、一度コンピューターのことは脳内から追い出しておきましょう。
目次
以下、私見による与太話が主体ですが、ウィキペディア先生などにもお世話になりながら考察を進めてまいります。
まず手始めに、Waha! Transformer の製品サイトでもいつもお世話になっているGoogleトレンドで、「ジョブ型」の検索数の推移を見てみましょう。
この無料サービスが開始された2004年に小さな山がまずあり、それから15年経過した2019年に盛り上がりの予兆が現れ、2020年7月と2021年1月にスパイクを見せながら、トレンドとしては上昇基調にあるように見えますね。
そんなジョブ型雇用について、過去職が米国発のビジネスモデルだったため、ジョブ型雇用の一端に触れた経験を持つ筆者なりの解釈をまとめると、戦後の高度経済成長を支えた日本型経営:メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用との大きな違いは以下の3点になるでしょうか。
「ジョブ型」は即戦力・キャリア採用が中心。新卒も通年採用の一環で存在するが、修士・博士のように「欲しい」分野における秀でたスキルを持っていない場合、インターンシップ期間の中で超優秀な人材だけが正社員として登用される。
【参考】Tokyo - Google 人材募集、映画の「インターンシップ」
ジョブ=適所に沿ったスキルでアサイン・評価されるので、スキルマップに記載されていない「忖度」のような定量化できないスキルは通用しない。もちろん、社内営業などはキャリアアップのためのコミュニケーションの一環としてある。
特徴的なのは、メンバーシップ型によくある「外部機関に委託した社員研修」などは、人事部門が用意してくれるものではないということでしょう。自律した個々人自らが独自のキャリアパスを描いて、不足するスキルを補完していくのは当たり前ということでしょうし、例えば同じ職種のメンバーが共通するスキルを学びたい時などは、外部の有識者に自らコンタクトするなどして、アドホックで勉強会を開催していくようなものではないでしょうか。
組織の規模が100人でも10万人でも、有能:2割~普通:6割~その他:2割という相対評価による人材構成は人類共通であるものの、全体のレベルを底上げしようとする目に見えない圧力がハンパない。結果、アサインされたジョブで目を見張る成果・効果が生み出せれば、年功序列などは無視した2階級特進のようなことも普通に起きる。
いかがでしょう?
働き方改革の実態が、過重労働の是正・有給休暇取得率の向上といった労働基準監督署の職務程度にとどまってしまっている中、黒船襲来ぐらいの不安をあおるようなパワーワードが並んでいますが、安心してください。
ジョブ型雇用の特徴について目線合わせができたところで、メンバーシップ型雇用の限界を感じさせるニュースを見つけたのでご紹介しておきます。
「ゆるい大企業」を去る若手たち。ホワイトすぎて離職?働きやすいのに“不安”な理由
直近の新入社員の48.9%が、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」と回答していたのだ。
教育投資に占める公的比率が他国と比べて低いわが国でも、ようやく「リカレント教育」の必要性が叫ばれるようになりましたが、組織を超えて持ち運び可能な汎用的なスキルではなく、所属組織に限定されたナレッジが重視される姿を見ると、有能な人材ほど不安になってしまうという心情はよくわかりますし、逆に、そんな不安を抱かないような、まるで「ゆでガエル」のような人材ばかりで構成される組織であれば、組織自体が市場から淘汰されてしまうのではないかと心配になってしまいますね。
前編で触れた「仕事ができる人」のレベルなどとっくの昔にクリアしている方や、示唆されたヒントが理解でき立ち居振る舞いに現れ始めている方なら大丈夫です。(どこの誰かも知らない筆者に大丈夫と言われても不安な方は、前編をご覧になってかみ砕いてから、この先に進んでいただくとよいでしょう。)
皆さんの組織には、事務系総合職や技術系専門職のような、職位・職制の大本となるような職種の定義はあるでしょうか?
給与明細や人事考課関連の資料など、手軽に参照可能なところで確かめることができなければ、それとなく人事部門に確認していただくとよいでしょう。
例えばwithコロナで、厚生労働省の元、技官というタイトルを持ったコメンテーターがワイドショーなどに出演しているシーンをご覧になった方もいるかと思いますが、いわゆる「キャリア官僚」が事務系総合職を指すのに対し、技官とは官公庁の技術系総合職を指します。
※ちなみに、自衛官や警察官、国立病院の医師・看護師などは技官ではなく特別職だそうです。
例に挙げた「事務系総合職」。これがいわゆる旧来型:メンバーシップ型雇用の総本山・象徴と呼べるものでしょう。
要するに「ホワイトカラー」(ネットスラングでは“スーツ”)なのでしょうけれども、これだけ見ると「何ができる人なのか?」まったく判別できません。
総務・経理・人事・営業・情シスなど、生産現場など技術系の人材からは「事務屋さん」と呼ばれ、組織全体に関わる業務をやる人、いわゆるゼネラリストですね。
それに対し、製造業や建設業などに代表される技術系総合職は「技術屋さん」であり、ITバブルの頃に「MOT:Management of Technology/技術経営」のような謎ワードがビジネス紙誌をにぎわせた時代に、敬意を表して「メタルカラー」などと呼ばれたこともありました。また、ホワイトカラーの“スーツ”の対になるネットスラングの“ギーク”は、さらにIT分野に細分化された人材像なのでしょう。
これら「メンバーシップ型」を象徴するホワイトカラーやメタルカラーという分類軸に対して、「ジョブ型」を単純化して解釈するなら、「何ができる人なのか、ジョブ・タイトルに記載された役割で判別できること」となるのでしょうか。※「やる人:Do」ではなく「できる人:Can」ということです。
「ジョブ型雇用」への移行・運用においては、組織全体を一気通貫した「ロール(役割)マップ」がまずあり、その一覧に記載されたジョブ・タイトルごとの「JD:Job Description(職務記述書)」が明細となり、それぞれのジョブに必要とされるスキルが、これまた組織全体を一気通貫した「スキル(技能)マップ」で定義されるわけですね。
メンバーシップ型で運営されてきた組織が、これら三種の神器をそろえるのがどれほど大変なことか、勘のいい方はおわかりでしょう。
少なくとも導入・移行の際には、部門・職種を横断したタスクフォースを期間限定で編成しないことには、三種の神器が使える精度の道具にならなそうであろうことは、想像に難くないのではないでしょうか?
それだけ大変でも、「ジョブ型」に移行しようとする組織がそれなりにあるということは、人口減少社会における労働生産性の向上など、経営面でも相応のメリットがあるからなのでしょう。
私たち働く側にとってみれば、メンバーシップ型では描くことが困難だった個々人のキャリアパスも、この三種の神器を参照すれば簡単に描けるようになるはずです。
ここまでご覧いただいてまだ「ジョブ型」が何のこっちゃわからない方は、人材派遣を依頼・契約する際のスキルシートを見ていただくとよいでしょう。
あれが「ジョブ型」のキモになる「職務記述書」の簡易版であり、「ジョブ型」の外資系企業などでは日常的に「JD(ジェーディー)」と呼ばれていたりするものです。
社費で海外へ留学し、「MBA:Master of Business Administration/経営学修士」を取得してしまうような優秀かつ有能な人材は、自らの力でJDの幅と深みを増していくのですからリスペクト以外の何物でもないですね。
この記事をご覧になっている皆さんでしたら、「守破離」はご存じですよね?
Waha! Transformerの製品サイトに掲載した情報リテラシーの図に当てはめれば、筆者は以下のように解釈しています。
<追記>
「守破離」とは、伝統の型をまずは徹底的に「守」り、それを相対化しながら研究を深めることで「破」り、その上であらゆる型から「離」れて自在の境地に立つ。
そうして新たな流派が生まれるのだと、千利休は言っています。
その美意識を体現した人たちはもう生きていないはずですが、その人たちが残した型を真似ることによって、自分の中に先人の美意識を取り込むことができます。
「守破離」という教えは、自分を型にはめ、次にそれを否定し破壊して、そこを離れることで新しい自分をつくり直すという、進化発展のための英知と言えます。
いかがでしょう?
ビジネスパーソンとして、ルールとマナーとモラルの違いを理解した上で、目の前の情報と視座高く向き合えるようになりたいものです。
組織内の守破離の分布については、パレートの法則の亜種と言われる「2:6:2理論」に当てはめると簡単ですから、守:2割~破:6割~離:2割という人材構成に、皆さんの組織はなっているでしょうか?
- 働きアリのうち、よく働く2割のアリが8割の食料を集めてくる。
- よく働いているアリと、普通に働いている(時々サボっている)アリと、ずっとサボっているアリの割合は、2:6:2になる。
- よく働いているアリ2割を間引くと、残りの8割の中の2割がよく働くアリになり、全体としてはまた2:6:2の分担になる。
- よく働いているアリだけを集めても、一部がサボりはじめ、やはり2:6:2に分かれる。
- サボっているアリだけを集めると、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれる。
一方で、仮に現在の職務等級が低くても、上位者のスキルを満たす成果が残せれば、2階級特進のようなアメリカンドリームが夢ではないところが、ジョブ型の魅力の一つでしょう。
ようやくタイトルの「特効薬」です。
そもそも、タイトルの前段にした~ジョブ型雇用で整理・淘汰される「仕事してるフリ」社員~とは、一体どんな人材を指すのでしょう?
以前、「AI・RPAの導入成功によって仕事を奪われてしまう人は本当にいるのか?」というお題で例示していますのでご参考ください。
- 仕事を惰性で進め、改善・改革しようとしない人
- いつも自分本位で仕事を進め、相手本位で考えることができない人
- 納期や期限が守れないなど、他人の時間を無駄に奪う人
AIやRPAに対して疑心暗鬼になる以前の問題として、このような姿勢・態度が顕著な人は、できるだけ仕事で絡みたくないと思われるのではないでしょうか?
もちろん、ジョブ型雇用なりのセーフティーネットがある上での話です。
それでも、自分がアサインされそうなジョブがロールマップに見当たらず、整理・淘汰されるリスクを低減するには、最低でも前記のような一緒に仕事をしたくない人と思われないよう、真剣に仕事に取り組みながらスキルアップに務める姿勢を持ち続けて、正しく評価してもらえるようにしたいものですね。
もとい
経営資源の「ヒト・モノ・カネ」に「情報:データ」が加わり、現在では「Data is the New Oil:データは新しい石油」とまで言われています。
カオス化してしまったDX:デジタルトランスフォーメーションという文脈においても、事業変革の結果、顧客とのあらゆるコミュニケーションがデジタライゼーションされることで、オフラインの時代には想像つかなかったようなデータが蓄積されていくはずです。
そんな宝物:データを活かせるような人材なら、ジョブ型雇用への移行という大嵐も、涼しい顔でやり過ごせると考えるのは筆者だけでしょうか?
本記事をご覧いただいて、
「よっしゃ!いきなり2階級特進は無理でも、せめてデータ活用人材になって活躍の幅を広げるぞ!」
と感じていただいた方々は、ぜひ「Waha! Day 2021」のアーカイブ配信をご参考ください。
ETL:データ連携ツールを使って「データ活用」の仕組みを組織にインストールし、事業成長に少なからずインパクトを与えたユーザー講演など、参加登録していただいた方に配布スライドと講演動画を限定公開しています。
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Webメディアのビジネス+IT主催「データ活用・分析 2022 冬」で講演したプレゼンテーション・スライドです。
マーケティング部門をはじめとするビジネス人材向けのカンファレンスにつき、内容についてはツールよりもデータ分析に取り組む人材や、データドリブン経営を推進するための組織・風土について、Waha! Transformer をご利用いただいているお客様から学んだことを中心に紹介しています。
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執筆者情報:
ユニリタ Waha! Transformer チーム
株式会社ユニリタ ITイノベーション部
PM・SEに限らず多様な経験・知見を持ったメンバーが、「データ活用」という情報システム部門の一丁目一番地でお役に立つべく集められました。
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