ビジネスとITのハブとなるIT部門がやるべき4つのステップ 後編 ~あるべき姿~
2023年現在、日本国内では多くの企業にDXを推進する部署が設けられ、職場の仕事のデジタル化、自動化が進められるようになりました。総務人事や営業系の事務処理にも、一昔前までは紙が残っていたかもしれませんが、コロナ禍でリモートワークが余儀なくされたこともあり、今ではほとんどが電子化・ワークフロー化され、さらに進んだ職場ではRPAや生成AIなどを活用した効率化が進んでいるかと思います。それに比較すると、外回りを含むアフターサービス領域については、あまりDXの成功事例を耳にしません。
そこで本記事では、アフターサービス領域にはDXを適用できる課題はないのか? ということに着目してみたいと思います。
アフターサービスとは、企業が顧客に製品を販売した後に提供されるサービス全般のことを指します。その中でもフィールドサービスと呼ばれる業務では、製品が利用されている現場に出向き、製品やサービスの導入、メンテナンス、修理などを行います。例えば、IT企業の技術者が顧客のオフィスに赴き、サーバーの設置やトラブルの解決を行うことなどがフィールドサービスの一例です。
その他にも、プラント設備、生産設備、重機、輸送機器、医療機器、複合機、電気・水道・ガス・鉄道などのインフラ設備等を製造・販売する企業にはアフターサービスを担当する部署またはグループ会社が必ず存在します。顧客の信頼を築き、顧客満足度を高めるためには、スムーズで効率的なアフターサービスの提供が不可欠です。
アフターサービスは現代のビジネスにおいて不可欠な要素です。アフターサービスによって顧客との直接的な接点を持つことで、顧客満足度やブランドイメージの向上に寄与します。また、顧客はサービスの品質や提供スピードに敏感であり、スムーズなアフターサービス体験は顧客ロイヤルティの向上にもつながります。顧客との良好な関係を築くことで、企業は競合他社に乗り換えられるリスクを減らすことができます。さらに、アフターサービス領域は自社製品の改善や経営の意思決定を行うために顧客の生の声を得られる貴重なデータソースだと言えます。
企業はアフターサービスに適切なリソースと戦略を投入することで、競争力を高め、長期的なビジネスの成功に向けて大きな一歩を踏み出すことができます。
アフターサービスの一般的な業務と、そこに潜む課題を見ていきましょう。
アフターサービスは一般的に、顧客からの問い合わせで製品の不具合や消耗品の交換時期を検知することからスタートします。しかし、問い合わせにはフィールドエンジニアを出動させるまでもない事象や単純な質問などが含まれるため、問い合わせ業務担当者はその内容を適切に切り分け、優先度を付けて顧客に対応する必要があります。この時点で、顧客情報、顧客が保有する製品情報、これまでのアフターサービスの履歴などの情報に瞬時にアクセスし、適切な判断ができることが重要になります。ノウハウが属人化し、受付担当者によって応対品質にムラが出てしまうことは避けなければなりません。また、担当者が即断できず、社内確認に時間がかかると、顧客満足度を落としてしまいます。
フィールドエンジニアによる訪問の必要性が判断されると、フィールドサービスを担当する部署に対して作業指示を送ります。ここでは問い合わせ担当者が掴んだ情報が、サービス担当部署に正確に伝達されることが重要です。顧客からの要望が曖昧に伝わってしまい、現地に赴いた際に顧客の期待に応えられなかった場合、特にそれがコミュニケーションミスによるものだと顧客に勘づかれてしまうと、顧客満足度を大幅に下げてしまいます。
顧客情報は一般的に営業部門が管理し、製品の新規販売時に登録されます。営業にとっては契約先、請求先が重要なので、これらはしっかりと管理されアップデートされていると思いますが、製品の利用部署・設置場所などの継続的な管理は課題となるケースが多いかと思います。利用部署との定期的なコミュニケーション手段を確立させ、部署・担当者・設置場所等の変更を検知できる関係性作りが重要です。
顧客が保有する製品のモデル名、型式、オプション仕様、ソフトウェアバージョン、消耗部品、周辺機器との接続状況などを可視化し、経年管理することを構成管理といいます。昨今ではネットワークに接続する機器が増えていますが、それに付随して外部からの不正アクセスを防ぐセキュリティ対策も重要になっています。脆弱性の問題がある機器を特定し、適宜交換やバージョンアップを行うためにも、構成管理はアフターサービスのキーポイントです。
フィールドサービスの訪問と作業が完了したら、その内容を報告書として顧客に提出し、承認をもらうことが一般的です。ここでは報告書にサインをもらうことだけでなく、訪問時に得られた顧客情報や構成情報の変更点、今後の予防保全に関する気づき等をサービス実績とともに自社のシステムにしっかりと記録することが重要です。フィールドエンジニアは外出が多く落ち着いてPC操作する時間も限られているため、このような情報の記録作業をモバイル端末などで効率的に行えるようにすることが必要になります。
顧客関係、製品知識について経験年数に応じて、フィールドエンジニアにはどうしてもスキルや熟練度の差が生じます。人材不足や要員の育成に課題を抱える企業も多いことでしょう。要員管理では要員別のスキルセットや経験年数をデータベース化し、中長期的な育成計画・アサイン方針を定めることが重要です。例えば、担当者の変更が多過ぎても顧客にとっては迷惑になりますが、特定のエンジニアをあまりにも長期間アサインし続けると属人化が進み、若手の育成機会も得られません。データベースをもとにしてそのバランスをとり、適切に要員管理と人材育成を計画することが大切です。
アフターサービスの実績は要員の評価とともに、今後の顧客に対するサービス計画や、自社製品の改善に活かされなくてはなりません。しかし、一般的に目の前の問題解決の忙しさのあまり、学んだことを中長期的に活かす余裕がないという状況をよく耳にします。フィールドサービス部門と製品開発部門間の組織の壁が弊害になっているケースもあります。アフターサービスという、最も顧客に近い現場から得られる情報やデータを、いかに中長期的な製品ライフサイクルの改善や経営の意思決定に活かせるかということが、個々の職場や業務の改善の上位に位置付けられる課題だと言えます。
ここまで見てきたように、アフターサービス業務においても情報をデジタル化し、一元管理して必要な要員にタイムリーに提供することで、業務品質向上や中長期的な改善サイクルの確立につながることがおわかりいただけたのではないでしょうか。投資予算や改善に割ける人員や時間には限りがあるので、一足飛びに理想像へ行ける訳ではありません。そこで、現実的で着実な改善を進めるアフターサービス成功への3ステップを考えてみたいと思います。
チェックリストや報告書など、紙の書類が残っている場合、情報活用の足かせになります。まずは紙の書類を撲滅することから始めましょう。昨今はローコード開発ツールで驚くほど簡単にモバイルアプリを開発することができます。
情報がデジタル化できても、それらが一元的に管理され、簡単に検索可能な状態になっていないとデータ活用が思うように進みません。CRM、構成管理、要員管理、収支管理などが別々のシステムとして縦割りになっていることがよくあります。これらのシステム間のデータを連携し、各業務の重要な局面で即座に参照・更新できるようにすることが2つ目のステップとなります。
昨今では製品自体にその利用状況や予防保全のためのデータを取る機能が組み込まれてきています。これらのデータをネットワーク経由で自動取得できるようにすることで、わざわざ現地に足を運ばなくても有用なログデータを得られるようになります。ログデータは膨大な量になるので、これらのデータをAIに学習させ有意な事象を検知することができるツール類が必要になってきます。最終ステップではこのようなデータドリブンな意思決定とアクションを行えるようにすることを目指します。
はじめから高価なAIソリューションやDXプラットフォームに飛びつくのではなく、上記のようにステップを踏んで、人手による運用やデータを活用するスキルを高めながら、次のステップを目指すというアプローチがお勧めです。
アフターサービス領域においても、DXの取り組みは有効です。デジタル化、IoT、AIの活用によって、顧客満足度の向上や中長期的な製品改善を実現することができるでしょう。今後はアフターサービスにも積極的にDXを取り入れる企業が増えていくことが予想されます。アフターサービス業務における課題の特定と、それに対するDXの具体的なアプローチを検討することで、業務の効率化と競争力の向上が可能となります。
ユニリタグループでは本記事で紹介したような業務課題を解決するサービスを提供していますので、以下のリンク先をあわせてお読みいただけると幸いです。ぜひ、本記事を通じてアフターサービス領域におけるDXの重要性と具体的な取り組み方について考えてみてください。それによって、より効率的で高付加価値なアフターサービスとフィールドサービスの実現に向けた一歩を踏み出すことができるでしょう。
執筆者情報:
ユニリタ DXアクセラレーションチーム
株式会社ユニリタ DXイノベーション部
DXアクセラレーショングループ
ユニリタグループのプロモーション担当チームです。
企業の経営課題である「働き方改革」と「DXの推進」の実現に向けたアプローチを「4つのステージ」として整理しました。 企業内事業部門のDXを加速させるために、日々セミナー講師や執筆を行い、情報発信をおこなっています。
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