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大企業でDXが進まない理由は?DXのファーストステップとしてフロント部門の整備を

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経済産業省が2018年に「DXレポート」を公開し、企業レベルでDXへの取り組みが進んでいない現状に警鐘を鳴らしました。しかし、DXを推進する企業はまだまだ少ないのが現状です。総務省の令和3年版情報通信白書によると、2020年時点でDXを実施している企業はわずか22.8%です。大企業は中小企業よりもDXへの意識が高いものの、「実施していない」の割合が約6割に上ります。[注1]

この記事では、大企業でもDXが進まない理由や、DXを妨げるレガシー化したERPシステムの足かせ、DX実現のファーストステップとしてのフロント部門の整備の重要性について解説します。

DXレポートとは?経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題

DXレポートとは、経済産業省が2018年9月7日に発表した「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」の略称です。DXレポートでは、「2025年の崖」と呼ばれる問題が取り上げられ、企業レベルでDXが進まなかった場合は最大12兆円の損失が毎年発生するという試算が公表されました。ここでは、DXレポートの概要や、DXレポート発表後の大企業の取り組み状況を説明します。

「2025年の崖」により、最大12兆円の損失が毎年発生するリスク

DXレポートで取り上げられた「2025年の崖」問題とは、企業がレガシーシステムを使いつづけた場合の経済損失を試算したものです。レガシーシステムとは、「既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化」状態を指します。[注2]経済産業省は企業がレガシーシステムを刷新しなかった場合、保守運用のためのコストが年々高騰し、2025年までにIT予算の9割以上を占めると試算しています。また、競争力の低下やシステムトラブルの多発が重なり、2025年以降は最大12兆円/年の経済損失が発生すると警告しています。

大企業の4割がDXの実施は「今後も予定なし」と回答

DXレポートの発表後、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、一部の領域ではDXに向けた取り組みが急速に進みました。例えば、2020年度のテレワーク導入率は67.2%に達し、前年度より31.7ポイントも上回る結果となりました。一方、総務省の令和3年版情報通信白書によると、大企業の4割がDXの実施は「今後も予定なし」と回答しています。[注1]

DXへの関心や危機感は一定程度見られるものの、全社的なDX推進には至っていないのが現状です。

DXを妨げるレガシーなERPシステム

DXを妨げる要因の1つとして、レガシー化したシステムが挙げられます。レガシーシステムというと、ITに関係するビジネスをしている方なら、第一にメインフレーム(大型汎用機)を思い浮かべると思います。しかし、このメインフレームは金融系のビジネスをしている会社以外では、システムのダウンサイジングが進み、メインフレームの利用は減少しています。

では、レガシー化したシステムとは何でしょうか?その実態は2000年台前半から急速に進み始めたメインフレームをダウンサイジングしたシステムであるERP(Enterprise Resource Planning)です。このERPとは、人事や総務、ID管理、生産や販売などの基幹業務を一元管理し、経営の効率化を実現するためのシステムと言われました。しかし、その実態は国際会計基準に対応するために導入されたEPR大手のSAP社の会計システムであることが実態です。生産システムや販売システムは、スクラッチのシステムや他のベンダーが提供するERPシステムを自社向けにカスタマイズすることがほとんどだったため、 企業内に多くのERPシステムが乱立する事態となりました。

ERPシステムのサポート終了

前述したERP大手のSAP社が提供する「SAP ERP 6.0」は、すでにサポートの終了が決定しています。過去にはクライアント&サーバー型と言われ、最新のシステムであったERPのレガシー化が進みつつあります。しかも自社の業務に合わせてカスタマイズされたERPは、かつてのメインフレームと同じくレガシー化したシステムと言えます。このレガシーなERPは何が問題でしょうか?

レガシーなERPシステムの4つの足かせ

レガシー化したERPシステムを使いつづけると、DXを実現するうえで以下の4つの足かせが生まれます。

  1. 全社横断的なシステム同士のデータ連携が失われる
  2. 業務プロセスがブラックボックス化し業務の属人化が進行する
  3. システムの保守運用がIT予算を圧迫し投資機会が失われる
  4. 高齢化により保守運用の担当者がいなくなりシステム移行の機会が失われる

DXを実現するためにはレガシーシステムを刷新し、「2025年の崖」問題を回避する必要があります。そのための手段の1つとして、ブラックボックス化したERPシステムを使っている場合は、システム移行を検討することが不可欠です。

しかしメインフレームをダウンサイジングしたときと同じく、このERPシステムの刷新は容易に進まないのが実態です。 

2000年台前半、企業は将来レガシー化するERPシステムを構築するために、多額のプロジェクト費用をかけてメインフレームからのダウンサイジングを実施してきました。中には失敗プロジェクトも多く「動かないコンピューター」と揶揄されることも多くありました。

ERPシステムを刷新するために、企業はその失敗を繰り返すのでしょうか?

DXの目的はERPシステムの刷新?全社的なビジネスモデルの変革を

経済産業省が2018年に公開した「DXレポート」の本来の目的は、ERPを始めとしたレガシーシステムの刷新ではありません。[注2]2018年のDXレポート発表後、経済産業省は2020年12月28日に「DXレポート2 中間取りまとめ」を公開しました。DXレポート2のなかで、経済産業省は「先般のDXレポートでは『DX=レガシーシステム刷新』など、本質ではない解釈を生んでしまった」と記述しています。[注3]ERPを始めとしたレガシーシステムの刷新は、DXを推進するための手段の1つであり、DXの狙いではありません。それでは、DXの本来の目的とはなんでしょうか。

DXの本来の目的は全社的なビジネスモデルの変革

経済産業省が2019年7月に公開した「『DX推進指標』とそのガイダンス」のなかで、DXを次のように定義しています。[注4]

「DX推進指標」における「DX」の定義

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

つまり、ERPシステムの刷新などの手段を通じ、新たな製品やサービスを生み出したり、ビジネスモデルを変革したりして、従来にはないビジネス価値を創出することがDXの本来の目的です。経済産業省のDXレポート2では、コロナ禍の影響も踏まえたうえで、企業がすぐに実践できるDXに向けたアクションとして、「事業継続を可能とする最も迅速な対処策として市販製品・サービスを導入」することを挙げています。[注4]ただERPシステムを刷新するのではなく、どのようにビジネスモデルを変革していくかを考え抜いたうえで、市販の製品やサービスへの移行を検討しましょう。

SoRとSoEとは

最近ではSoRとSoEという言葉もよく聞くようになりました。SoRはSystem of Recordの略であり、まさしくレガシー化したERPシステムを指します。企業にとって必要ではあるものの、刷新が必要となっているシステムです。

変わってSoEはSystem of Engagementの略であり、「顧客のためのシステム」です。前章で記載したフロント部分のデジタル化を進めていく上で非常に重要な考え方です。

しかしSoRとSoEはどちらかだけが必要というものではありません。これまでは記録するものとして利用されていたシステムですが、これからはその枠を広げ、顧客を中心として考えるシステムも構築してく必要があり、それがDXにつながっていきます。

DXの実現はフロント部門の整備と、それを支えるIT部門から

しかし、すべてのERPシステム・基幹業務システムを一度に刷新すると多大な手間やコストがかかります。DXの実現にあたっては、まずスモールスタートを心がけ、できるところからデジタル化を進めていくことが大切です。それでは、DX実現のファーストステップとして、どのような課題をシステム導入によって解決すべきでしょうか。経済産業省のDXレポート2では、DXのファーストステップとして以下の4つの領域を挙げています。

  • 業務のオンライン化
  • 業務プロセスのデジタル化
  • 顧客設定のデジタル化
  • 従業員の安全・健康管理のデジタル化

特にDXの費用対効果を実感しやすいのが、顧客へのセールスやコミュニケーションを中心としたフロント部門です。営業や管理部門、ヘルプデスク、カスタマーセンターなど、顧客データを部署ごとにバラバラに保管し、有効活用できていない企業が少なくありません。DXのファーストステップとして、収集した顧客データを基幹業務システム上で一元管理できる仕組みを導入しましょう。顧客データを見える化し、分析することにより、マーケティングからカスタマーサポートまで全社横断的に顧客中心のサービスを展開できます。 

ITサービスを継続的・安定的に改善するためには、ITサービスマネジメントを取り入れてみませんか?

DXのファーストステップとしてフロント部門のデジタル化を!

経済産業省が2018年にDXレポートを発表し、レガシーシステムを使いつづける弊害について警鐘を鳴らしました。しかし、大企業の4割がDXの実施を予定しておらず、まだまだDXの必要性が浸透していないのが現状です。

DXの足かせとなっているのが、レガシー化したERPシステムであることは間違いありません。しかし、ただERPシステムを刷新するのではなく、「顧客データの全社的な活用」「顧客中心の新サービスの創出」など、ビジネスモデルの変革の一環としてシステム移行に取り組むことが大切です。

そのためのファーストステップとしてフロント部門のデジタル化が重要なります。このコラムを読んでいただいている皆様も、システム刷新におけるDXにおいて、ぜひステップを踏んでのDXに取り組んでいってください。


[注1] 総務省:令和3年版情報通信白書
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n1200000.pdf

[注2] 経済産業省:DXレポート
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf

[注3] 経済産業省:DXレポート2
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-1.pdf

[注4] 経済産業省:「DX推進指標」とそのガイダンス
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf 

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